「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら源氏物語『藤壺の入内』解説・品詞分解(1)
ひとつ前のお話はこちら源氏物語『桐壺(藤壺の入内)』(1)(2)現代語訳「年月に添へて、御息所の御ことを思し忘るる折なし。~
目次
(1)源氏の君は、御あたり去り給はぬを、~
源氏の君は、御あたり去り給はぬを、
源氏の君は、帝のおそばを離れなさらないので、
ましてしげく渡らせ給ふ御方は、え恥ぢあへ給はず。
まして頻繁にお通いになるお方(=藤壺)は、(光源氏に対して)最後まで恥ずかしがってはいらっしゃれない。
いづれの御方も、われ人に劣らむと思いたるやはある、
(帝にお仕えしている)どのお方も、自分が人より劣っているだろうと思っている方がいるだろうか、(いや、いない、)
とりどりにいとめでたけれど、うち大人び給へるに、
それぞれにたいそう美しいけれど、少し年長でいらっしゃるのに、
いと若ううつくしげにて、切に隠れ給へど、おのづから漏り見奉る。
(藤壺は)たいそう若くかわいらしくて、しきりにお隠れになるけれど、(光源氏は藤壺の姿を)自然とお見かけする。
母御息所も、影だにおぼえ給はぬを、
(光源氏は)母の御息所(=桐壷の更衣)のことも、姿さえ覚えていらっしゃらないが、
「いとよう似給へり。」と、典侍の聞こえけるを、
「(藤壺は光源氏の母に)たいそうよく似ていらっしゃる。」と、典侍が申し上げたので、
若き御心地にいとあはれと思ひ聞こえ給ひて、
幼心にたいそう慕わしいと思い申し上げなさって、
常に参らまほしく、「なづさひ見奉らばや。」とおぼえ給ふ。
いつも(藤壺のおそばに)参りたく、「親しんで拝見したい。」とお思いになる。
(2)上も、限りなき御思ひどちにて、~
上も、限りなき御思ひどちにて、「な疎み給ひそ。
帝も、(藤壺と光源氏のことは、)この上なく大切に思う者どうしなので、(藤壺に向かって、)「(光源氏に)よそよそしくなさらないでください。
あやしくよそへ聞こえつべき心地なむする。
不思議に(あなたを光源氏の母親に)なぞらえ申し上げても良いような気持ちがします。
なめしと思さで、らうたくし給へ。
無礼だとお思いにならないで、かわいがってあげてください。
つらつき、まみなどは、いとよう似たりしゆゑ、かよひて見え給ふも、
顔つき、目もとなどが、たいそうよく似ていたので、(あなたが光源氏の母に)似通ってお見えになるのも、
似げなからずなむ。」など聞こえつけ給へれば、
ふさわしくなくはないのです。」などと(帝が)お頼み申し上げなさったので、
幼心地にも、はかなき花紅葉につけても心ざしを見え奉る。
(光源氏は)幼心にも、ちょっとした花や紅葉につけても好意を(藤壺に)お見せする。
こよなう心寄せ聞こえ給へれば、弘徽殿の女御、また、この宮とも御仲そばそばしきゆゑ、
この上なく心を寄せ申し上げなさっているので、弘徽殿の女御は、また、この藤壺の宮ともお仲がよろしくないので、
うち添へて、もとよりの憎さも立ち出でて、ものしと思したり。
さらに加えて、以前からの(光源氏の母であった桐壷の更衣への)憎しみも出てきて、(光源氏を)不愉快だとお思いになっている。
世にたぐひなしと見奉り給ひ、名高うおはする宮の御容貌にも、
世に比類がないと(女御が)見申し上げなさり、評判が高くいらっしゃる第一皇子(=弘徽殿の女御の子)のお顔立ちに(比べて)も、
なほにほはしさはたとへむ方なく、うつくしげなるを、世の人、『光る君』と聞こゆ。
やはり(光源氏の)輝くような美しさはたとえようもなく、かわいらしいので、世の人は、『光る君』と申し上げる。
藤壺ならび給ひて、御覚えもとりどりなれば、『かかやく日の宮』と聞こゆ。
藤壺も(光源氏と)お並びになって、帝の寵愛も二人それぞれに厚いので、『輝く日の宮』と申し上げる。
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