※2015年(平成27年度)センター試験の本試験『国語』第3問の古文にて出題
「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳の身はこちらセンター試験《古文》2015本試験『夢の通ひ路物語』現代語訳
「こたびは、とぢめに も 侍ら む。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
も=強調の係助詞、訳さなくてもよい
侍り=ラ変動詞「侍り」の未然形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である女君を敬っている。この敬語を使った右近からの敬意。
※「候ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
「今回が最後なのでございましょう。
御覧ぜ ざら むは、罪深きことに こそ思ほさめ」とて、うち泣きて、
御覧ぜ=サ変動詞「御覧ず」の未然形、「見る」の尊敬語。動作の主体である女君を敬っている。敬語を使った右近からの敬意。
ざら=打消の助動詞「ず」の未然形、接続は未然形
む=仮定の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどちらかである。訳:「(もし、)御覧にならないなら、(そのようなことは)罪深いことだと」
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
め=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形
(このお手紙をあなたが)御覧にならないなら、罪深いことであると思いなさるでしょう。」と(右近は)言って、泣いて、
「昔ながらの御ありさまなら ましか ば、
ながら=接続助詞、次の①の意味で使われている。
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。
ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。
「(もし今でもお二人の関係が、)昔のままのご様子であったとしたら、
かくひき違ひ、いづこにも苦しき御心の添ふべき や」と、
ひき違ひ=ハ行四段動詞「引き違ふ」の連用形、期待に反する、予想を裏切る。変更する
べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
や=反語の係助詞
このように予期しないこととなり、どちらにも苦しいお気持ちが加わるでしょうか。いや、そのようになることはなかったでしょう。」
と、忍びても聞こゆれ ば、
忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。
も=強調の係助詞、訳さなくてもよい
聞こゆれ=ヤ行下二動詞「聞こゆ」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である女君を敬っている。地の文なので作者からの敬意
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
と、(右近は)ひそかに申し上げるので、
いとど恥づかしう、げに悲しくて、
いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに
げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に
(女君は)ますます恥ずかしく、本当に悲しくて、
振り捨てやら で 御覧ず。
やら=補助動詞ラ行四段「遣る」の未然形、(下に打消語を伴って)すっかり~する、最後まで~する、~しきる
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
御覧ず=サ変動詞「御覧ず」の終止形、「見る」の尊敬語。
振り捨てきれないで(男君のお手紙を)御覧になる。
「さりともと 頼めし甲斐(かひ)も なきあとに 世のつねならぬ ながめだにせよ
さりとも=接続詞、「今は~だとしてもこれからは~だろうと」といった意味
頼め=マ行下二段動詞「頼む」の連用形、四段だと意味は「あてにする」や「頼みに思う」だが、下二段だと「あてにさせる」や「頼みに思わせる」と使役の意味が加わる。ここでは直後に「し」が来ていることから連用形だと判断し、下二段だと分かる。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続(直前に来る活用形)は連用形
甲斐(かひ)=名詞、効果、効き目。価値
なき=掛詞、「無き」と「亡き」に掛けられている
※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。
掛詞を探すときのポイント(いずれも例外有り)
①ひらがなの部分
②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語
③地名などの固有名詞
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ながめ=名詞、物思い。眺望
だに=副助詞、強調(せめて~だけでも)。類推(~さえ・~のようなものでさえ)。添加(~までも)
せよ=サ変動詞「す」の命令形、する
(今は離れ離れで悲しい境遇だが、)そうとはいっても(いつかは昔のように会えるようになるだろうと)と頼みに思わせた甲斐も無い。せめて私の亡き後に、世間一般でするよりも深い物思いだけでもしてくれ
雲居のよそに見奉り、さる ものの音 調べ し夕べより、心地も乱れ、
雲居=名詞、(天皇(当時の神様)が住んでいる所ということで)宮中。大空、天上。遠く離れたところ
よそ(余所)=名詞、離れたところ
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る」の連用形、謙譲語。動作の対象である女君を敬っている。敬語を使った男君からの敬意。
さる(然る)=連体詞、あの、ある、某。そのような、そういう
ものの音(ね)=名詞、楽器の音、音楽
調べ=バ行下二段動詞「調ぶ」の連用形、演奏する
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
(入内して私から遠く離れたあなたを)宮中で拝見し、(帝と女君の前で)あの笛を演奏した夕べから、心地も乱れ
悩ましう思ひ給へ しに、
給へ=ハ行下二段動詞「給ふ」の連用形、謙譲語。動作の対象である女君を敬っている。敬語を使った男君からの敬意。
※「たまふ」は四段活用と下二段活用の二つのタイプがある。四段活用のときは『尊敬語』、下二段活用のときは『謙譲語』となるので注意。下二段活用のときには終止形と命令形にならないため、活用形から判断できる。四段と下二段のそれぞれに本動詞・補助動詞としての意味がある。
※ここでは直後に「し」が来ていることから連用形だと判断し、下二段だと分かる。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
悩ましく思っておりましたところ、
ほどなく魂の 憂き身を捨てて、君があたり迷ひ出でな ば、
の=格助詞、用法は主格。「魂の」→「魂が」
憂き=ク活用の形容詞「憂し」の連体形、つらい、苦しい。いやだ、不快だ
な=完了の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。
まもなく私の魂がつらい身を捨てて、あなたの辺りにさまよい出たなら、
結びとめ給へ かし。
給へ=補助動詞「給ふ」の命令形、尊敬語。動作の主体である女君を敬っている。敬語を使った男君からの敬意
かし=念押しの終助詞、文末に用いる、~よ。~ね。
(あなたのもとに)結びとめてくださいよ。
惜しけくあらぬ命も、まだ絶えはてね ば」
惜しけく=ク活用の形容詞「惜しけし」の連用形、惜しい
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
惜しくもないこの私の命も、まだ絶え果てはいないので。」
など、あはれに、つねよりはいとど見所ありて書きすさみ 給ふを御覧ずるに、
あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じる、しみじみとした情趣がある。そこから文脈に応じて「美しい、かわいい、気の毒だ、悲しい」などの意味で訳す。「しみじみと感じる」と訳しておけば無難かもしれない。
いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに
すさみ=マ行四段動詞「荒む・遊む」の連用形、気の向くままに~する、興にまかせて~する。もてあそぶ、慰みにする。「荒ぶ・遊ぶ(すさぶ)」と同じ意味である。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である男君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
御覧ずる=サ変動詞「御覧ず」の連体形、「見る」の尊敬語。動作の主体である女君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
などと、しみじみと感じて、いつもよりさらに見所があるように気の向くままに(男君が)書いていらっしゃるのを(女君が)御覧になると、
来し方 行く先みなかきくれて、御袖いたう濡らし給ふ。
来し方=名詞、過去、過ぎ去った時。通り過ぎてきた場所
行く先=名詞、未来、将来。進んでいく先。余命
かきくれ=ラ行下二段動詞「掻き暗る(かきくる)」の連用形、(涙で)かすむ、心が暗くなる。辺り一面がすっかり暗くなる
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である女君を敬っている。
これまでのことやこれから先のことがみな(絶望で)暗くかすんで、袖を(涙で)ひどく濡らしなさる。
うち臥し給へ るを、見奉るもいとほしう、
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である女君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
※「たまふ」は四段活用と下二段活用の二つのタイプがある。四段活用のときは『尊敬語』、下二段活用のときは『謙譲語』となるので注意。下二段活用のときには終止形と命令形にならないため、活用形から判断できる。四段と下二段のそれぞれに本動詞・補助動詞としての意味がある。
※ここでは直後に「る」が来ていることから已然形だと判断し、四段だと分かる。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
奉る=補助動詞ラ行四段「奉る」の連体形、謙譲語。動作の対象である女君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
いとほしう=シク活用の形容詞「いとほし」の連用形が音便化したもの、気の毒だ、かわいそうだ。かわいらしい。
(女君が)伏しておられるのを、(右近は)拝見するのも気の毒で、
「いかなり し世の御契り に や」と、思ひ嘆くめり。
いかなり=ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連用形、どうだ、どのようだ
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
よ(世)=名詞、男女の仲、夫婦の関係。社会、世の中。時代。一生、生涯
御契り=名詞、前世からのご縁、前世からの約束、宿縁。約束、誓い、男女の交わり
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
や=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あらむ」が省略されていると考えられる。
※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など
「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。
「どのようであった前世のご縁なのだろうか。」と、思い嘆くようである。
「人目なき程に、あはれ、御返しを」と聞こゆれ ば、御心も慌しくて、
あはれ=感動詞、ああ。「あはれ」とは感動したときに口に出す言葉であることから、心が動かされるという意味を持つ名詞や形容詞、形容動詞として使われるようにもなった。
聞こゆれ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の已然形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である女君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
「人目が無いうちに、ああ、お返事を。」と(右近が)申し上げると、(女君の)御心も慌ただしくて、
「思はずも 隔てしほどを 嘆きては もろともにこそ 消えもはてなめ
思はず=「思は(四段動詞未然形)/ず(打消の助動詞連用形)」、意外だ、思いがけない
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
め=推量の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
「思いがけずも離れてしまったことを嘆いて、(そこでもし、あなたの命が消えるようなことがあれば、)一緒に私の命もきっと消え果ててしまうだろう。
遅るべう は」とばかり、書かせ 給ひても、
べう=意志の助動詞「べし」の連用形が音便化したもの
は=強調の係助詞。直後に「無し」が省略されていると考えられる。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。すぐ下に尊敬語が来ていないときは必ず「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ひ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である女君を敬っている。地の文なので作者からの敬意。
遅れるつもりは(ない)。」とだけ、お書きになるけど、
え引き結び給は で、深く思し惑ひて泣き入り給ふ。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない。」
給は=補助動詞ハ行四段「給ふ」の未然形、尊敬語。動作の主体である女君を敬っている。作者からの敬意。後の「給ふ」も同じ。
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
(その女君自身が書いたお手紙を)お結びになれないで、深く思い悩みなさってひどくお泣きになる。
※手紙としてまともに構成できていないということ。
「かやうにこと少なく、節なきものから、
ものから=逆接の接続助詞。活用語の連体形に付く。
※「もの」がつく接続助詞はほぼ必ず「逆接」となる。まれに「順接」。例:ものの・ものゆゑ・ものを
「このように言葉も少なく、まとまった長さもないけれども、
いとど あはれにもいとほしうも御覧ぜ む」と、
いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに
あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと感じる、しみじみとした情趣がある。そこから文脈に応じて「美しい、かわいい、気の毒だ、悲しい」などの意味で訳す。「しみじみと感じる」と訳しておけば無難かもしれない。
いとほしう=シク活用の形容詞「いとほし」の連用形が音便化したもの、気の毒だ、かわいそうだ。かわいらしい。
御覧ぜ=サ変動詞「御覧ず」の未然形、「見る」の尊敬語。動作の主体である男君を敬っている。敬語を使った右近からの敬意。
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
ますますしみじみと思うも、気の毒にも、(この女君のお手紙を男君は)御覧になるだろう。」と、
方々思ひやるにも、悲しう見奉り ぬ。
思ひやる=ラ行四段動詞「思ひ遣る」の連体形、推察する、想像する。気にかける、心配する。気を晴らす、心を慰める
奉り=補助動詞ラ行四段「奉る」の連用形、謙譲語。動作の対象である女君(あるいは男君と女君の双方)を敬っている。作者からの敬意。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
(男君と女君の)それぞれを思いやるのにおいても、悲しく拝見した。